家は岬にあって、床も壁も全てが真っ白…強いて言うなら、ドアノブの使い込んだ真鍮の金具が、差し込んだ陽光に鈍い金色に光っているくらいで……。
薄いレェスのカーテンの掛った窓からはいつも海が見える。
陽光は晴れていても常に柔らかく、北欧の何処か薄ボンヤリした憂欝な気怠さを漂わせている。
さして広い家では無いはずなのに、何故かいつも外界に通じるドアが見つからない。
部屋の中は蛍光灯の神経質な蒼白い光で照らされており、何処かで古い蛍光灯や電化製品が立てる高音と低音と震動音、カチカチと言う接触音が入交じった嫌な音がしている。そんなに長時間ソコにいる筈もないのに、やたらに長い時間、此処にいる様に感じて神経が苛立つ。
そうしている間に、部屋の中の光度はどんどん上がって行く。
刻、一刻ともう、光はハロゲンライトの様なあからさまな明度で陰翳を刈りとって行く。
多元的、もしくは真夏の正午の太陽光の様なフラットさで、影はもう私の足許にしか存在しない。
視界を真っ白に焼かれ奪われていく。
恐怖感はないが、ひどく不安で不快な気持ちになる。
不意に、廊下の向こうに扉が出現し、開け放たれると、色調を掛けた様なウルトラマリンの海が波を逆巻かせ荒れ狂っている。
全ての窓が一斉に開け放たれ、長いレェスのカーテンが風を孕んで一斉にはためく。
晴れ晴れとした嵐が雪崩れ込んでくる。
暴力的な色彩。
公明正大で圧倒的大義名文に似た人工的な正しさ。
別の不快さに眩暈を起こしながら、『あぁ、まただ…』と、思う…。
何が、『また』なのか? わからないが…きっと『また』なのだ。
彼の地で異端の烙印を受けた種子が御手により再び荒れ地に撒かれる。
それでも、生きてやる。
彼女が微笑む。
神話から神話を渡り、姿と名前を変えて生きる強かで美しい彼女の、誇るべき娘であると微笑う。
地表は幾度雷と雨の侵略を受けてもそ知らぬ顔で花を満たす。
烙印のスペルは《Live》